少年と旧市街
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少年はその街に1000年前から住んでいた。見かけは少年だけど中身は古城の主のよう。
街のあちらこちらで悪戯をするのが彼の仕事で、それはどれも一風変わった仕業だった。
例えば文句ばっかり言う酒飲みの頭には鶏のトサカを付けたし、内気な娘には馬車の鈴をプレゼントした。
身寄りのないおばあちゃんには猫のくしゃみが聞こえる補聴器を、直立不動の門番には砂糖で固めたひまわりの種を。
庭先の石を積んだ焼却炉に愛人の指輪を、寝室につながる階段の下に油の小瓶を置いたかと思えば、
郵便屋さんの自転車の後ろのボックスと、ありとあらゆる鍵穴の上に雨のカバーを付けたりした。
しかしどれほど悪戯を繰り返しても、この街に少年を知る人はいない。
古くとも愛すべき街の風のように見えないまま通り過ぎてゆくのだ。
上宮 貴之
この絵は個展のDMハガキ用に描きました。
豪華で美しく歴史的価値の高い装飾本に、3大ケルト装飾写本があります。
リンディスファーンの福音書、ダロウの書、ケルズの書、そのどこかで、このような少年を見たような気がしています。